両用レンズは

『あなたの度数』と『累進面』

が合わさって出来てます。

両用レンズ(累進多焦点レンズ)はレンズ上部から下部へ度数がスムーズ移り変わっていくレンズです。遠用度数→中間度数→近用度数の移り変わりの段階は非常に細かく無数で、度数と度数の境目はわからないほどです。この度数の移り変わりを実現しているのが『累進面』です。
『累進面』は老眼を補正するためのものです。例えば40代中頃でしたら『+1.00』くらいで50代でしたら『+2.00』くらいでしょうか。『+1.00』の累進面は上部が『0(ゼロ)』で最下部が『+1.00』、『+2.00』の場合なら上部が『0(ゼロ)』で最下部が『+2.00』の累進面となります。

また、人それぞれの目の状態が違います。近視・遠視・乱視など、度数の種類や強弱など含めて装用者の目の状態に合わせて形成されるのが『度数面』です。累進多焦点レンズはこのお客様それぞれの目に合わせた度数を形成する『度数面』と老眼を補正する『累進面』の2つが合わさって出来ていると言えます。
(※図は説明のためのイメージです。実際のレンズ表面にはデコボコはございません。)

まとめ

・両用レンズ=『累進面』+『度数面』

最初はほとんど

外面累進

でした。

累進多焦点レンズは最初、ほとんど外面累進設計のみでしたがその理由は製造工程にあったと思います。
外面累進を作るにはまず、度数の入ってないレンズの外面に累進面を形成します。累進面は老眼の度数(プラス度数)の強弱で決まりますがある程度パターンが決まっています。次にレンズの内面(裏側)に度数面を形成します。度数面は装用者の度数によって様々で複雑ですが、これは単焦点レンズも同じです。
あらかじめ外面に累進面を形成したレンズを何パターンか用意しておき、後でその内面に単焦点レンズと同じ加工を施してお客様の度数に合わせることが出来たので製造過程において非常に効率的だった、という訳です。

現在においても外面累進レンズは後で説明する内面や両面累進に比べて比較的製造がしやすく、安価にお買い求めいただけます。老眼がそれほど強くない方や目の度数がさほど強くない方は外面累進でも全く問題はないと思います。

新技術で作れるようになった

内面累進

はすごい。

累進面と度数面の両方がレンズの内側に配置されているのが内面累進です。レンズの外面側に度数が入りませんから加工の工程が省かれ、一見簡単そうに見えると思いますが、『度数面』と『累進面』を合算した値から導き出されるレンズ曲面というのは非常に複雑な形になります。 その上、お客様ごとに違う『度数面』と『累進面』の組み合わせの数はパターン化出来ないほどに膨大なものになります。

高度な演算処理と切削・研磨技術を用いて、お客様ごとに違う複雑な曲面をレンズ内側に刻んでいくという工程は今までの既存の技術や設備では製作が不可能で、新しい加工技術の登場によって可能となりました。ある程度パターン化された既成の累進面を用いる外面累進とは次元が違う訳です。
内面累進はお客様個々の『度数面』×『累進面』から導き出される最適な形状をレンズ内側に形成するほぼオーダーメイドレンズと言えます。
また、眼に近いレンズの内面(内側)に度数を配置することによって『外面累進よりも視界が広くなり、歪みが少なく感じられるようになる』『外面カーブを最適な形状に保ったまま度数が加工出来る』というメリットもあり、光学性能が格段に上がりました。

異次元の設計、

両面(複合)累進

は説明不可!

外面・内面、と来れば当然『両面』ですね。両面累進は外面と内面の両方に累進面があるという訳ではなく、外面と内面が合わさって累進面を形成するというものです。(ややこしい言い方ですが実際には外面にも内面にも累進面は『無い』ということになります。)光は外面→内面の両方を屈折しながら進みますので、外面・内面合計の結果で累進面を形成する(『複合累進』または『両面累進+両面非球面』)ということになります。

構造に関しては内面累進よりさらに複雑ですので、もはや解説不能です。ただ高速な演算処理とフリーフォーム加工(自在な自由曲面が切削で加工出来る)技術によって製造が可能になったレンズです。
外面累進の『上下方向の目線移動が楽』というメリットと内面累進の『左右方向の視界が広い』というメリットの両方を併せ持ち、さらに上下左右の両方向の違和感も緩和しています。
※『両面累進』という名称にはいささか注意が必要で、まれに外面累進の内側に『補正面』を加工したものや、内面累進の外側に『補正面』を加工したものも『両面累進』と表現されることもあります。

まとめ

・レンズ外面と内面を合わせて累進面を形成するレンズは『両面複合累進』または『両面累進+両面非球面タイプ』と呼ばれます。

『補正面』があるから

内面累進と両面累進の優劣

はややこしい。

1枚のレンズに沢山の度数を配置する『累進多焦点』にどうしても発生する『収差(歪みやボケの原因)領域』。度数の種類・強弱・分布によって発生する収差にも個性があり、それを完全に無くすというのは現在の技術では不可能ですが、高度な演算処理と高い加工技術によって収差を補正して軽減することが出来るようになりました。それが『補正面』です(『収差フィルター』など別の名称で呼ばれることもあります)。
外面累進の中でも『補正面』を『内面』に加工して光学性能を高めたものや、内面累進の『外面』に『補正面』を加工して両面累進の性能に近づけたものなど、設計においての多様性が非常に増しています。『両面複合累進』や『両面累進+両面非球面タイプ』は非常に高性能な上位のレンズと言えるのですが、特に『内面累進』と『両面累進』の優劣は決め難いのが現状だと思います。

設計に関係なく

見え方の好き嫌い

も稀にある。

現在の技術では『収差』を完全に取り除いて「ゼロ」にすることは出来ません。(補正面で緩和したとしても結果として収差領域は幾分存在することには変わりがありません。)
収差をどんどん緩和していくとにじみやボヤケの度合いはマシにはなっていくのですが、逆に言うと『明視領域(ハッキリ見える部分)』と『収差領域(ぼんやり見える部分)』の境界はあいまいになります。すると妙な現象が起きます。度数は合ってるのに「全体がぼんやりしているように感じる。」とおっしゃる方が稀にいらっしゃいます。

明視領域と収差領域の差があいまいになってくると『視界が広くなった』とも感じますが、『全体がなんとなくボヤケている』という風にも感じます。

収差領域のにじみやボヤケが強いほど、明視領域は逆に際立って『ハッキリと見えている』という感覚になります。

中央の一文字『あ』の鮮明度は同じです。

※こちらはあくまで説明のためのイメージです。

人間の眼はあくまで正確ではなく、その見え方や捉え方には個人の嗜好や感覚が大きく影響します。シンプルな設計から複雑な設計まで様々な種類の両用レンズが存在するのはこのような理由があるからかも知れません。